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ひだまりの中で

くるみとジジと日々のできごと。

若いころは

ジムの化粧室で「若いころはきれいだったやろね、いや、今もきれいやけど」って言われた。
無口で、普段あまり会話しない人だったからびっくりした。一瞬、どう返事したらいいのかわからなかったので、とりあえず「ありがとう」とお礼を言っといた。

10年前に退職してからメークをやめて最近は口紅すらつけていない。眉毛が薄くなってきたからアイブロウで眉を書くぐらい。

すっぴんの顔を褒められるなんて気恥ずかしいけど、これまでの人生山あり谷ありで、今も嵐のまっただ中だけど、そんなに悲観しているわけでもないからそれが顔に現れているのかもしれない。

帰り際、フロントの女の人が「息子さん、次の小説はまだですか?」と、文学賞の大賞を取ったS平のことを聞いてくれて、日々の忙しさにかまけて忘れていたことを思い出させてくれた。

「期待しています」の一言に、自分が励まされたような気がした。

 

一昨日から、kenが銭湯に行っている間、私が病室に残ってIちゃんの様子を見ることになった。
Iちゃんは個室にいるので、病院の関係者以外の人との接触がほとんどない。だから、私が毎日届けるお弁当と着替えの洗濯物を持って行く時だけが、外の世界の人と繋がる時間なのだ。

いつも天井を見ていて、ほとんど言葉を発しないIちゃんが、今日に限って体位交換や足のマッサージをして欲しいと言う。
そして、「何かお話して」と、まるで子どもがおねだりするように、小さな声でせがむ。

お話をと言われても、とっさに話題が浮かばない。
少し考えてから、Iちゃんがヴェガスから連れて帰ったダックスフンドのくるみの話しをしたり、パソコンに取り込んだくるみの写真を見せてあげたりした。

 

そんな日が続いて今日で3日。
帰り際、両手を合わせて拝む格好で「おかあさんありがとう。無理ばかり言ってごめんね」と何度も繰り返す。

「もう抗がん剤をしなくて済むね、よかったね」と言うと嬉しそうに頷いた。
4クール目から再開した抗がん剤が効かなかったので、今週から新薬の飲み薬に切り替えることになっている。
だけど、骨髄抑制が起きているのでその薬すらも使えない。
今までもたぶん、おそらく、私の口から抗がん剤を止めてもらおうね、と言って欲しかったのだと思う。でも、kenが絶対あきらめないと頑張っているので、止めてとは言いにくかったのだろう。
Iちゃん、もう頑張ってなんて言わないからね。辛かったら辛いと、痛かったら痛いと言っていいんだよ。

もう何も我慢することないからね。

 

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